茶書を読む 山上宗二記 4

御唐物の御荘りは四季に依りて 時に非ざる物を 眼前にご覧ぜらるるは
併し御名物の御威光か
その上 小壺 大壺 御花入れ 香炉 香合 御絵 墨蹟等
誠に案外の御覚悟に媚びたるお遊びは
茶の湯に過ぎたる事はあるまじき など申し上ぐ

唐物の飾り方は四季に依るが、時節に関係ないものを 賞玩できるのは
やはり名物であるからであろうか
その上、茶入、葉茶壷、花入、香炉、香合、絵画墨蹟等
誠に思い掛けず、真理を求めるという意に沿った遊興は
茶の湯ほどの物はないであろうなどと申し上げる

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茶書を読む 山上宗二記 3

南都皇明寺に珠光と申すもの
この御茶の湯に三十ヶ年 身上を擲ち 一道に志深きものにて候
その次に件の二十か条の様子
その外孔子聖人の道も学び 珠光と相談の密伝 
口伝 残らず悉く申し上げ候
第一、雪の内には炉中の楽しみあり
御釜の煮え音は松風をそねむに 春夏秋共に面白き御遊興これなり

奈良の称名寺に住まう珠光という名の者
この茶の湯に三十年、財産をなげうち、ただ一心に茶の道に深く志す者で御座います
それから、例の二十か条(茶湯者之覚悟十体事及び又十体事)の様子
その他儒教など聖人の教えを学び、珠光と話し合って出来上がった秘密の作法
口伝いに教える作法など 悉く残らず申し上げなさった
まず、雪の季節には炉中の楽しみがある
釜の煮える音は松林の中を通る風を羨むがごとく 春夏秋いづれも面白い遊興はこれで御座います

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茶書を読む 山上宗二記 2

御身は東山に御隠遁ありて 四季共に 昼夜の御遊興は甚だ斜めならず
頃は秋の末月、いまだ遅宵の空、誠に虫の音さえ無くますます物哀れなる折節
能阿弥を召して、源氏物語、ことには雨夜の品定、歌、連歌、月見、花見、毬、小弓
扇合せ、絵合せ、草尽し、虫尽し、様々興ぜしこし方も事ども御物語なさるるの刻
昔よりありきたる遊びは早や事も尽きぬ
ようやく冬近し 雪の山を分けて鷹狩りも御年行に随いて御退屈なり
何か珍しき御遊びあるべきか など御諚の節
能阿弥謹んで得心いたし 首を垂れる
やや暫くありて その憚りを顧みず申し上げ候
されば楽道の上は御茶の湯と申す事御座候

義政様は東山に御隠居なされて、四季問わずまた、昼夜となく盛んに遊興をなされていました
秋の末の頃、日が暮れていくらか時間の経った頃であろうか虫の鳴く声も聞こえず、なんともしみじみとした夜に
能阿弥を召し出して源氏物語、雨の夜の風情、和歌、連歌、月見、花見、蹴鞠、小弓を使った遊び
扇や絵の風流を競う遊び、草花や虫の名前や歌などを挙げ連ねる遊びなどなど様々な遊びについてお話なさって居られたとき
昔からあり、たびたび親しんできた遊びは早々に話も尽きてしまいました
冬も徐々に近づいてきて居る、雪山を駆けての鷹狩りも年齢とともに面白いとも思わなくなって来た
何か珍しい遊びはあるか などとご下問なされた折
能阿弥は謹んで承り、少し考える様子であった
暫くあって、畏れ多いことではあったが申し上げなされた
それで御座いましたら、風雅を楽しむ物として茶の湯と言うものがございます

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茶書を読む 山上宗二記 1

珠光の一紙目録これなり
それ御茶の湯の起こりは普光院(普広院)殿鹿苑院殿の御代より
御唐物、同じく御絵賛など歴々集め畢んぬ
その頃は御同朋衆 善阿弥、毎阿弥なり
両公方様ご他界の後
桂雲院十三の御年 御落馬故 ご短命なり。
その後 東山慈照院殿 御代に 悉く御名物寄せ給い畢んぬ
花の御所様へご家督を参らせられし時 
明皇院殿も御後見として
これまた都に残り給い畢んぬ
御名物等も少々渡し、その外 七珍萬寳の儀はその数を知らずと云々

村田珠光の秘伝書はこのようであった
それ、茶の湯の始まりは 足利義教様、足利義満様の時代から
唐物道具や詞書のある絵画など素晴らしいものをお集めになられました
そのころの同朋衆は善阿弥、毎阿弥でした
義教、義満、両公方様がお亡くなりになられた後
足利義勝様13歳の御時に御落馬なされた為ご短命で御座いました
その後、足利義政様の在位期間には名物を悉くお集めになられました
足利義尚様に家督をお譲りになられたときには
義政様の跡を継ぐ予定であった義視様も後見として
これまた都にお留まりになられました
その際には名物等もいくらかお渡しになられ、その他沢山の宝物を譲られました

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